てのひらの闇 藤原伊織 文春文庫

2021/4/28(水)

仕事をやり切ったら、会社を辞めることになってもいいみたいな感覚もあると思います。

今月で早期退職することになったから、朝まで六本木のバーで飲んでいて、道に寝ころび記憶をなくし雨に打たれた。ということでなくて、別の思いに捉えられています。

大恵飲料の営業職が長かった堀江は石崎会長に呼ばれ、会長が趣味としているビデオカメラ撮影でとられたものを見せられます。

以前、もともと堀江はCM制作会社で働いていました。
映像で映っているマンションから落ちた子供をキャッチするという英雄的行動を見て疑問を抱きます。

20年前の女優がしてしまった失敗。その責任を自らが被ろうとした堀江。そのことと今回のビデオの映像。
大恵飲料の隠された背任と自殺の理由が明らかになってきます。

普通の家庭で生まれ育っていない堀江は、小さい頃から剣道で鍛えられ、ハードボイルドに真実に迫っていきます。
退職後、自分の命などどうなってしまってもいいが如く。

普通の境遇で育ち、給料をもらっている人間とは全然違う人生をおくっている主人公は女性にもモテるけれど40代になって独身。
それで、これから先の身の振り方も定まっていない。
腕っぷしもまだ強いところに、先の見えない時代の人生を生きていることを感じます。
ここで終わってしまわないで、新たな章があるといいです。



カズサビーチ 山本一力 新潮文庫

江戸の幕末、鎖国の日本へ黒船が来たことの伏線となった出来事。アメリカの捕鯨船が日本の漂流していた乗組員を救けた出来事が書かれています。幸栄丸(松平阿波守所属)を鳥島で、千寿丸(銚子港所属、南部藩・松前藩からの物資を運ぶ)を海上で救助しました。人道目的での救助でしたが、日本へ連れて行くと、反対に沿岸で大砲を撃たれたり、武士に切られたりする恐れがありました。ー捕鯨船マンハッタン号の乗組員で日本語が出来る者はなく、救助された日本人で英語の出来る物もいない。伝えたい事柄を、絵を描くことで主に意思疎通しました。航海には絵が達者な乗組員がメンバーに加わっています。船長室には家族写真が掛る時代です。

合計22人の日本人を送り届ける決断後、カズサビーチ沖に着きます。鎖国中の江戸幕府や諸藩において異国船や乗組員の扱いについて揉めます。日本側の英語通訳を担当した人は長崎の出島に勤めていて、オランダ人から英語を教えてもらいました。オランダ語はマスターしています。英語ネイティブと対話し直に教わっていなく、鎖国時の英語の資料では限られてしまっていたので、捕鯨船の乗組員との意思疎通もはままならなかった。そんな中でも苦労して交渉し、無事日本人は生還して、補給や修理をして貰えます。

来日が多かった現在、街で話した外国人ではオランダ人は英語が上手です。英語が出来るのは当たり前の社会は、世界の海を渡った時代から現在も、(オランダの港であった)各地の人がオランダに移住しています。